モデルではない生物

このブログは実在するC. elegansとは関係ありません。

棘皮動物をモチーフとするポケモンの形態についての考察

ご挨拶

線虫亭線虫(以下、「著者」)と申します。この記事では、棘皮動物をモチーフとするポケモン達のデザインがモチーフの特徴をどのように反映しているのかを、棘皮動物に特徴的なボディプランの観点から見ていきます。なお、この記事におけるゲームのスクリーンショットは全て匿名の協力者より提供されたものです。この場を借りて御礼申し上げます。
以下常体。

 

 

この記事の目的と方針

 この記事の目的の一つは、後述する「棘皮動物のボディプラン」について、それがどのように棘皮動物をモチーフとするポケモン(以下、「棘皮ポケモン」)のデザインに反映されているのか(いないのか)を考察することである。より砕けた表現をすれば、棘皮ポケモンの形態の棘皮動物「らしさ」について考察する。この記事では、あるポケモンが現実の生物の系統関係のどこに位置するかをポケモンの形態から推論することや、それによってポケモンうしの近縁関係を議論することは行わない。棘皮ポケモンのモチーフはいずれも形態以外の要素、即ち名前や『分類』、図鑑説明文から推定したものであり、この推定と形態がどのように整合するかをこの記事では問題とする。また、ポケモンのデザインがモチーフとなる生物の形態的特徴を反映しているかどうかと、そのデザインが「良い」かどうかは別であり、この記事では後者の評価は控える。

 この記事のもう一つの目的は、これからポケモンの形態を考察する人々が参照しやすいように整理した考察を、誰でも参照できる形で、文字媒体として保存することである。ポケモンの形態を少しでも考察したことがあるという人は多いだろうが、そのアイデアは頭の中にあるか親しい誰かに話すか、ツイート(古いものは一見すると消えてしまうので参照しにくい)となるかという場合が多いだろう。考察を記事として整理し参照可能な形で保存しようとすることは労力がかかるためか、人々が行った考察全てを文献として参照できる状況にはなっていない(昨今ではアイデアを出し合う様子を動画として配信して保存する場合もあるが、良し悪しは別にしてそのような場合考察が整理されているわけではない)。幸い今の著者には労力をかけるだけの資源があるため、一考察者として整理された考察を保存しようと思った次第である。この記事の中には「車輪の再発明」と呼ばれるアイデアも多く存在するだろうが、読者の皆様においては、この記事の目的を考慮してご容赦いただきたい。

棘皮動物のボディプラン

f:id:C_ele_gagagans:20210205151633p:plain

図1:現在考えられている棘皮動物の現生5綱の系統関係。図はReich et al.(2015)を参考に作成した。

f:id:C_ele_gagagans:20210205155052p:plain

図2:(五)放射相称性と体内の水管系の模式図。5つの相称面(赤線)が交わる中心軸の位置に口(黒円)が位置する。口を取り囲む環状水管から放射水管が伸び、体外に管足を伸ばす。図は各種参考文献の情報を基に自作した。

棘皮動物は後生動物(以下、「動物」)の一門である棘皮動物門に含まれる生物のことで、現生のものはウミユリ綱、ヒトデ綱、クモヒトデ綱、ナマコ綱、ウニ綱の5綱に分類される。現生棘皮動物は単系統群であり、綱どうしの系統関係を図1に示す。現生棘皮動物一般に共通する身体構造上の特徴として、「口側-反口側軸を中心軸とする(五)放射相称性」と「水管系の存在」が挙げられる。以下、それぞれについて詳しく述べる。

 

口側-反口側軸を中心軸とする(五)放射相称性について

棘皮動物、特にその成体の特徴としてよく挙げられることと言えば五放射相称(種や個体によっては五ではない場合もある)のボディプランだが、外部構造や内部構造の配置から考えるとその中心軸は口を通ると考えて差し支えないだろう(図2)。外形としては口を起点として放射状に歩帯(綱によって歩帯溝や食溝などと呼ばれる場合もある)が伸び、その周囲に間歩帯が存在している形態をとる。内部構造としては、口の周囲を環状水管が取り巻きそこから放射相称のそれぞれのユニット(大抵は5つ)に向かって放射水管が伸びる水管系や、それに並行して走る神経系がある。このような形態は棘皮動物門の現生5綱全てで共通しており、棘皮動物に特徴的なボディプランであると言える(ただしどの綱でも、幼生の形態は左右相称である)。なお放射相称の体を持つ棘皮動物は、ナマコと一部のウニを除き移動の際の前後軸が定まらない(360度どの向きにも移動できる)。棘皮動物の体軸を表す用語としては、「口側-反口側」軸が用いられる。口側が口のある側、反口側がその反対側である。

水管系について

口を中心とする放射相称の体を持つ動物としては他に刺胞動物門(イソギンチャクやサンゴを含む動物門)や有櫛動物門(クシクラゲやクラゲムシを含む動物門)があるが、棘皮動物にはこれらの動物とは異なり水管系が存在する。水管系は体腔由来の器官系で、内部に海水を取り込みそれを用いて呼吸や排出などを行う循環系の役割を持つと同時に、その一部が体外へと伸びて管足となり、身体の移動や餌の口への運搬に用いられる。水管系の大部分は体内に存在するため外部形態として観察できる部分は限られる。一つは先述の管足であり、これは放射水管の一部が体外へと露出しているものである。もう一つは多孔板と呼ばれる外部の海水と水管系を繋げる穴が多く開口した部分で、ヒトデやウニで見られる。

 

この記事では上記の2点について、即ち「口側-反口側軸を中心軸とする(五)放射相称性があるかどうか」及び「水管系に関する形態的特徴があるかどうか」を基準として棘皮ポケモンのデザインを考察する。

考察の進め方

棘皮動物をモチーフとするポケモンヒトデマン・スターミー(ヒトデ綱)、リリーラユレイドル(ウミユリ綱)、ナマコブシ(ナマコ綱)、ヒドイデドヒドイデ(ヒトデ綱)、バチンウニ(ウニ綱)の計8種族である(()内はモチーフとなる綱)。これらのポケモンについて、モチーフとなる綱毎に分け、それぞれの綱について次のように進める。まず、対象とする綱の生物の形態的特徴を「口側-反口側軸を中心軸とする(五)放射相称性」及び「水管系に関する形態的特徴」の観点から概説する。次に、対象とする綱をモチーフとするポケモンについて、写真を用いながら口側-反口側軸を定める(なお、口の位置は「ソード・シールド」のキャンプでカレーを食べる映像や、「ポケモンGO」できのみを食べる映像から推定した)。最後に、対象とするポケモンのデザインがモチーフとなる綱の生物の形態的特徴をどのように反映しているかを、「口側-反口側軸を中心軸とする(五)放射相称性があるかどうか」及び「水管系に関する形態的特徴があるかどうか」の観点から述べる。なお、ポケモンの身体の部位の表記については図鑑の記述に従い、図鑑に表記されていない名称を用いる場合は「(**と考えられるもの)」などといった形でその旨を記した。また、文中に登場するポケモンの部位の名称は画像写真にその位置と共に記載した。

ウミユリとウミユリモチーフのポケモン

ウミユリについて

ウミユリ綱には有茎のウミユリ類と無茎のウミシダ類が含まれるが、ここではウミユリ類について説明する。ウミユリの身体は冠部(萼と腕に分けられる)、萼の反口側から繋がる茎部、茎部先端にある根部に分けられる。萼には神経系をはじめとする諸内臓器官が収められており、上面(口盤、上蓋)のほぼ中心に口が開く。口からは5本の食溝(歩帯溝)が放射状に伸び、萼から放射状に生える腕の根本にそれぞれ繋がる。食溝は腕や腕の両側に生える羽枝の先端にまで繋がり、その内側にある管足で小型プランクトンを捕獲し、口まで運搬する役割を担う。腕は先端に行くまでに何度も分岐し、基本的に5の倍数本あるように見える(ただし分岐の多い種では各腕で必ずしも一様に分岐しないので5の倍数にならない場合がある)。茎部は茎板と呼ばれる構造が靭帯によって連なってできており、その断面は五角形(ウミユリ目)または円形(ホソウミユリ目)である。ウミユリ目の場合、一部の茎板(節板と呼ばれる)からは五本の巻枝が輪生する(ホソウミユリ目の巻枝はほとんど失われている)。巻枝は根部と共に身体を支持するために用いられる器官で、これによって外界の構造物にしがみつく。根部は固着のために用いられる部位で、固着する環境によって円盤状、掌状、細かく分岐するものなど様々な形態をとる。以上から、腕、食溝、巻枝はウミユリの口側-反口側軸を中心軸とした五放射相称性がよく現れる外部形態であると言える。また、水管系は上蓋に点在する水孔によって外部の海水と接続する。従って、外部から観察可能な水管系は食溝の管足と水孔となる。

リリーラユレイドル

f:id:C_ele_gagagans:20210205161249p:plain

図3:左側から見たリリーラユレイドルユレイドルの首は前方向に曲がっていると判断し、首を伸ばした状態の口側-反口側軸を定めた。

f:id:C_ele_gagagans:20210205161552p:plain

図4:上から見たリリーラユレイドル。黒線は突起の根本と首の中心を結ぶ線(頭が被っている部分は仮のものであり、点線とした)。

リリーラとその『進化』先のユレイドルのモチーフは、『分類』や名前からウミユリであると推測される。
まずは触手に注目する。リリーラユレイドル共に壷状の頭(と考えられる部分)から伸びる触手は8本、放射状に生えている。リリーラユレイドルの頭はウミユリの萼に、触手はウミユリの腕に対応すると考えられるが、ウミユリの場合は先述の通り萼から5の倍数本の腕が放射状に生えるのに対し、リリーラユレイドルの触手の本数は5の倍数とはなっていない。ユレイドルの図鑑説明(ウルトラムーン)には「8つのしょくしゅで えものを とらえ しょうかえきで とかしながら くう。」とあり、単に触手が少なめに描画されているわけではない可能性が高い。従ってリリーラユレイドルの触手の本数は、ウミユリの五放射相称性についての特徴を反映したデザインではないと言える。
次に首と体に注目する。リリーラユレイドルの体からは5つの突起が生えており、歩く時にこれら(特に左右の4つ)を脚のように動かす。これらの突起と体はポケモンの身体全体を支持する役割を持っていると言える。ウミユリで身体全体を支持するのに用いられる部位は茎部と茎部から生える巻枝と根部であり、リリーラユレイドルの首と体と突起はウミユリのこれらの部位に対応していると考えられる。先述のようにウミユリの巻枝は(生える場合は)口側-反口側軸を中心軸とした五放射相称に生えるが、リリーラユレイドルの体の突起の生え方も(完全な相称ではないものの)口側-反口側軸を中心軸とした五放射相称に近い配置となっている。位置関係としてはリリーラユレイドルの体はウミユリの根部との方が茎部とよりもよく対応するものの、反口側の外部形態にも口側-反口側軸を中心軸とした放射相称性が見られるという点で、リリーラユレイドルの体のデザインはウミユリの五放射相称性をやや反映していると言える。
最後に頭(と思しき部分)に注目する。先述のようにリリーラユレイドルの頭が対応するウミユリの萼には、その口側に口とそこから放射状に5本伸びる食溝が存在する。食溝には外部形態として観察できる水管系の一部である管足が並んでいる。しかしリリーラユレイドルの頭の内側は黒く描写されており、より詳細に観察することができない。また、ウミユリの食溝は先述のように腕や羽枝の先にも繋がるが、ウミユリの腕に対応するであろうリリーラユレイドルの触手には食溝らしき構造は観察できない。さらに、頭には水孔のような穴が点在する様子も見られない。従って、リリーラユレイドルの頭と触手のデザインは水管系に関するウミユリの外部形態の特徴を反映しているとは言えない。

ヒトデとヒトデモチーフのポケモン

ヒトデについて

ヒトデの身体は中心部の盤とそこから放射状に生える腕に一応分けられるものの、両者に厳密な区別はない。腕の数は種や個体によって異なり、5本の種も5本以上の種(オニヒトデでは11-18本)もある。口側の中心には口が開き、口を中心として腕の先端まで放射状に伸びる歩帯溝が存在する。歩帯溝には2列又は4列に管足が並び、ヒトデはこれを用いて移動や外界の構造物への付着、摂食を行う。盤に存在する環状水管は石管(石灰質の管)によって盤の反口側にある多孔板と連絡している。多孔板は小さな穴を多く持つ石灰質の小円盤で、この穴を通して外界と水管系の間で海水をやり取りする。多孔板の数は種によって異なり、腕の数とは比例しない。以上から、腕や歩帯溝の配置の仕方はヒトデの口側-反口側軸を中心軸とした放射相称性がよく現れる外部形態であると言える。また、管足やそれが並ぶ歩帯溝、及び多孔板は外部から観察可能な水管系の一部である。

ヒトデマンとスターミー

f:id:C_ele_gagagans:20210205162259p:plain

図5:左から見たヒトデマンとスターミー。なお、この画像における前後は遅い移動時の進行方向から定めた(速い移動時は口側を上に向けて回転しながら移動するため、前後軸が定まらない)。

ヒトデマンとその『進化』先のスターミーのモチーフは、名前からヒトデであると推測される。
体の中心にあるコア(とヒトデマンの場合コアから伸びて反口側にまで達するリング状のもの)を除いては、ヒトデマン、スターミー共に完全な五放射相称の形をしており、その中心軸は口側-反口側軸と一致する。従って全体の外形としては、ヒトデマンやスターミーのデザインはモチーフのヒトデ(特に腕が5本ある種)の口側-反口側軸を中心軸とした放射相称性をよく反映していると言える。
一方で、ヒトデマン、スターミー共に口側に歩帯溝のような構造や管足らしきものは観察できない。また、反口側の中心付近(ヒトデの盤に対応する部分)に多孔板のような構造は見られない。従って、水管系に関連する形態的特徴の観点からは、ヒトデマンやスターミーのデザインはモチーフのヒトデの特徴を反映しているとは言えない。

ヒドイデドヒドイデ

f:id:C_ele_gagagans:20210205163212p:plain

図6:上から見たヒドイデドヒドイデ。放射相称の中心軸と口側-反口側軸が一致しない。

f:id:C_ele_gagagans:20210205163343p:plain

図7:前から見たヒドイデドヒドイデ

ヒドイデとその『進化』先のドヒドイデのモチーフは、タイプ(毒・水)や図鑑説明文の記述からオニヒトデであると推測される(オニヒトデはサンゴを食害し、毒を分泌できる棘を備えている)。
ヒドイデドヒドイデは頭の上端から触手(ヒドイデ)又は脚(ドヒドイデ)が放射状に(ヒドイデの触手は10本、ドヒドイデの脚は12本)生え、頭の下にさらに体の一部を備える。触手の生え方は頭の中心を通り上下軸に平行な軸を中心軸として放射相称となっているが、この軸は口側-反口側軸とは一致しない。従って、放射相称ではあっても口側-反口側軸を中心軸とする放射相称ではないため、その点ではヒドイデドヒドイデのデザインはモチーフの特徴を反映しきれていないと言える。
また、ヒドイデドヒドイデ共に触手(脚)の内側(オニヒトデの腕の口側に対応する)や口の周辺には歩帯溝らしき構造は見られず、上側中心部(オニヒトデの盤の反口側に対応する部分)に多孔板らしき構造は見られない。水管系に関連する形態的特徴が見られないという点で、ヒドイデドヒドイデのデザインはモチーフの特徴を反映しているとは言えない。

ナマコとナマコモチーフのポケモン

ナマコについて

ナマコ綱は棘皮動物の中で唯一進行方向の軸(前後軸)と口側-反口側軸が一致するグループで、一見すると五放射相称であるようには見えないものも多い。しかし、ナマコの体壁の内側には五放射相称に配置された5本の縦走筋がある他、歩帯も(ある場合は)5本走っている。このように外部形態としては観察しづらいものの、ナマコも口側-反口側軸を中心軸とした五放射相称性を備えている。ナマコの口は管足が変化した触手(これを用いて摂食を行う)に囲まれており、その数も5の倍数であることが多い。また、種によっては一部の管足が運動機能を持たない疣足と呼ばれる突起へと変化している。例えば楯手目(潮間帯や浅海帯にいる多くの種はここに含まれる)では、歩帯が接地する側に3本、接地しない側に2本という風に偏っており、接地しない側の2本の歩帯の管足が疣足に変化し、移動には接地する側の3本の歩帯にある管足を用いる(疣足が消失している場合もある)。ナマコの水管系は総排出腔の壁を通じて外部の海水と接続しており、多孔板は持たない(多孔板と相同な穿孔体と呼ばれる構造はあるが、多くのナマコでは外部と繋がっていない)。以上から、触手や歩帯は口側-反口側軸を中心軸とした五放射相称性が(辛うじて)現れる外部形態であると言える。また、水管系に関連する外部形態としては管足やそれが変化した疣足が挙げられる。
補足:ナマコは強いストレスを受けると口又は肛門から消化管、あるいは肛門からキュビエ器官を吐き出す。キュビエ器官は一部の楯手目が持つ器官で、呼吸樹と呼ばれる呼吸器官から繋がる。キュビエ器官は体外に放出されるとナマコ自身以外のものに強く粘着する。

ナマコブシ

f:id:C_ele_gagagans:20210205164825p:plain

図8:左から見たナマコブシ

f:id:C_ele_gagagans:20210205164955p:plain

図9:前から見たナマコブシ

ナマコブシのモチーフは、『分類』や名前、図鑑説明文の記述などからナマコであると推測される。
ナマコブシの全体の外形は、スターミーのように明確に口側-反口側軸を中心軸とした五放射相称であるようには見えない。まずは口の形に注目する。ナマコブシの口は「大」の形をしており、中心から放射状に5本の白い線が伸びるデザインとなっている。先述の通りナマコの口は多くの場合5の倍数本の触手によって囲まれており、外部から口側-反口側軸を中心軸とした五放射相称の様子を観察できる部分である。ナマコブシの口には触手のような描写こそないものの、口側-反口側軸を中心軸とした五放射相称性が「大」によって表現されているという点で、ナマコの特徴を反映したデザインであると言える。
次に、ナマコブシの身体の上から出ているピンク色の突起に注目する。この突起はナマコの疣足に対応していると考えられる。先述の通り、浅い海に生息する種を多く含む楯手目の種類では接地しない側の2本の歩帯の管足が疣足に変化しており、疣足は管足と共にナマコの水管系に関連した外部形態である。ピンク色の突起が上側の前後方向に2列存在するというナマコブシのデザインは、モチーフであるナマコの水管系に関連した形態的特徴を、その配置まで含めて非常によく反映していると言える。

ウニとウニモチーフのポケモン

ウニについて

ウニ綱の種は、形態から不正形類とそれ以外(便宜的に正形類と呼ばれる)に大別される。
正形類のウニは上下軸に平行な口側-反口側軸を中心軸とした五放射相称の半球状の殻を持つ。管足の対列とその間の領域をまとめて歩帯と呼び、歩帯は口から放射状に出て殻の表面を上下方向に走る。移動の際の定まった前後は存在しないと言われている。多孔板は肛門とともに殻の頂上付近に存在し、ここを通して外部と水管系の間での海水のやりとりをする。管足は棘と共に移動に用いられる。殻を見るとわかりやすいが、棘の配置も口側-反口側軸を中心軸とした五放射相称になっている。以上から、棘や管足の配置は正形類のウニの口側-反口側軸を中心軸とした五放射相称性がよく現れる外部形態であると言える。また、外部から確認できる水管系の一部として管足およびそれが並ぶ歩帯と、多孔板が挙げられる。
不正形類のウニは移動の際の前後方向が定まっており、左右相称の殻を持つ。しかし内部形態としては環状水管から伸びる5本の放射水管やそれに平行して走る神経系などが観察でき、口側-反口側軸を中心軸とした五放射相称をベースとしていることは正形類と変わらない。口は身体の下側やや前方に、多孔板は頂上部に位置する。口側-反口側軸はやはり上下軸と平行である。歩帯は口から前方に3本、後方に2本伸び、それぞれ頂上へと接続する。頂上付近の歩帯は花のような模様(花紋)を形成する場合がある。管足はタコノマクラ目やカシパン目では歩帯に限らず間歩帯からも出ており、餌を口まで運ぶ際に利用する(身体の移動の際は棘を利用する)。ブンブク目では管足が特殊化し穴を掘ったり餌を集めたりするのに用いられる。以上から、不正形類の口側-反口側軸を中心軸とした五放射相称性を示す外部形態としては口から5本ある程度の放射性をもって伸びる歩帯が挙げられる。また、外部から確認できる水管系の一部としては、管足と多孔板が挙げられる。

バチンウニ

f:id:C_ele_gagagans:20210205170402p:plain

図10:左から見たバチンウニ。

f:id:C_ele_gagagans:20210205170519p:plain

図11:前から見たバチンウニ。

f:id:C_ele_gagagans:20210205170711p:plain

図12:上から見たバチンウニ。

バチンウニは口が前にあり、口側-反口側軸と一致するのは上下軸ではなく前後軸である。口側-反口側軸を中心軸として棘は五放射相称に配置されているようには見えず(一応前から見ると棘は5列あるので歪んだ五放射形に見えなくもないが)、口から伸びる歩帯のような構造も確認できない。上方向や横方向から観察しても棘は五放射相称に配置されていない。従ってヒドイデドヒドイデのように「中心軸は違うがモチーフの放射相称性が一応反映されている」というわけでもない。バチンウニのデザインは、口側-反口側軸を中心軸とした五放射相称性が全く見られないという点で、モチーフであるウニの特徴を反映しているとは言えない。
バチンウニには歩帯や管足のようなものも確認できない。バチンウニの2対の足(のようなもの)は、ウニの身体に対する管足の太さよりずっと太く、ウニの身体に対する管足の長さよりずっと短いため、足が管足を反映したデザインであるとは断言できない。また、バチンウニのどこを見ても多孔板のような構造は観察できない。従って、バチンウニのデザインは水管系に関連する形態的特徴が見られないという点でモチーフの特徴を反映したものになっているとは言えない。

後書き

以上常体。
棘皮動物「らしさ」を考えた時に「口側-反口側軸を中心軸とする(五)放射相称性があるかどうか」及び「水管系に関する形態的特徴があるかどうか」の2点が重要になると考え考察を行いました。人によってはこれら以外のことに「らしさ」を見出す場合もあると思います。また、棘皮動物についての知識やポケモンの知識で考慮すべき点が考慮できていない、又は間違っている可能性もあります。これらの事情からこの考察も完全なものではありませんが、この記事を見てポケモンのことを考え、それを書いてみようと思う方が増えたら幸いです。

参考文献

各種ポケモンwiki

https://wiki.ポケモン.com/wiki/リリーラ

https://wiki.ポケモン.com/wiki/ユレイドル

https://wiki.ポケモン.com/wiki/ヒトデマン

https://wiki.ポケモン.com/wiki/スターミー

https://wiki.ポケモン.com/wiki/ヒドイデ

https://wiki.ポケモン.com/wiki/ドヒドイデ

https://wiki.ポケモン.com/wiki/ナマコブシ

https://wiki.ポケモン.com/wiki/バチンウニ

棘皮動物に関するwikipedia

https://ja.wikipedia.org/wiki/ウミユリ綱

https://ja.wikipedia.org/wiki/ウミシダ

https://ja.wikipedia.org/wiki/ウニ

https://ja.wikipedia.org/wiki/棘皮動物

https://ja.wikipedia.org/wiki/水管系

その他のWebページ

https://www.tokyo-zoo.net/topic/topics_detail?kind=news&inst=kasai&link_num=192

https://www.kitasato-u.ac.jp/mb/serc/download/annual_report_2018_02_ver2.pdf

https://ja.wikipedia.org/wiki/刺胞動物

https://ja.wikipedia.org/wiki/有櫛動物

なお、Webページの最終閲覧日はいずれも2021/2/5。

論文

Reich A, Dunn C, Akasaka K, Wessel G (2015) Phylogenomic Analyses of Echinodermata Support the Sister Groups of Asterozoa and Echinozoa. PLoS ONE 10(3): e0119627. doi:10.1371/ journal.pone.0119627

書籍

内田亨 監修(1974). 『動物系統分類学第8巻(中) 棘皮動物』. 中山書店.

本川達雄ら(2003). 『ナマコガイドブック』. 阪急コミュニケーションズ.

佐波征機ら(2002). 『ヒトデガイドブック』. 阪急コミュニケーションズ.

田中颯ら(2019). 『ウニハンドブック』. 文一総合出版.

高橋明義・奥村誠一(2012). 『ナマコ学 -生物・産業・文化-』. 成山堂書店.

池内昌彦ら 監訳(2013). 『キャンベル生物学 原書9版』. 丸善出版.

  

以上。